<冠動脈CT造影について>
開院1年が経過し、マルチスライスCT血管造影の経験も蓄積され、小山 雅之放射線技師をはじめスタッフも研鑽を積み、日々さらなる質の向上を目指しています。たまたま依頼を受け冠動脈CT造影について講演する機会がありましたので、そこで話した内容を簡単にまとめてみます。
Preoccupation with Coronary Luminology
狭心症は>75%の高度な冠動脈狭窄による心筋の血流不足(心筋虚血)で生じる。その診断のゴールドスタンダードは、カテーテル的冠動脈造影である。しかし、その検査がある程度リスクを伴う侵襲的検査であるがゆえ、客観的な虚血の事実を確認する必要があり、運動負荷心電図、負荷心筋シンチなどのスクリーニング検査が前提となる。もし、その結果が陰性であれば診断のプロセスは終了し、冠動脈疾患診断の機会は失われる。ところで、こうした負荷検査、そしてカテーテル的造影は冠動脈の高度狭窄を検出する検査であるが(luminology)、実際は高度狭窄が心筋梗塞の原因となることはむしろ稀である。
Paradigm shift; Luminology to Plaque morphology
心筋梗塞など重篤な急性冠症候群の大半は狭窄度としては軽微な病変から発症しており、そうした病変は狭心症をもたらすことはない。血管内超音波検査で検証された急性冠症候群をもたらす病変は、1)低いエコー輝度の脂質に富んだプラーク、2)軽微な石灰化、3)陽性リモデリング、4)プラーク量多く被膜が薄い、といった特徴(plaque morphology)を示す"不安定"病変である。心筋梗塞の予防は、このような不安定病変の存在を検出し、至適内科治療(薬物治療や生活習慣の改善)でプラークを安定化させることにある。血管形成で狭窄を拡張することは、狭心症の症状を取る治療であっても心筋梗塞の予防治療ではない。
Coronary CTA
CT冠動脈造影は外来で実施する非侵襲的診断法である。冠動脈の狭窄病変を100%に近い陰性的中率(CTで病変がないと判断され、実際に病変がない割合)と70%程度の陽性的中率(CTで有意病変と判断され、実際に有意病変である割合)で診断することができる。しかし、より重要なことは血管壁を描出することで、血管内超音波で検証された不安定プラークの特徴を検出することが出来ることにある。すなわち、CT造影は各種負荷検査やカテーテル造影では知ることのできない不安定病変の存在を知ることのできる検査法である。
Indication
疑わしい症状や心電図変化があればもちろんのこと、心筋梗塞や突然死を来した症例の半数しか、発症前に狭心症などの予兆を自覚していない事実からは、症状の有無にかかわらず糖尿病や他の血管障害を発症しているようなハイリスクな対象も冠動脈CT造影で評価されるべきである。また、ステント留置など血管形成治療を受け、最終造影検査から1年以上が経過している場合もプラーク評価や新たな狭窄病変出現の有無を調べるためCT造影が勧められる。
Conclusion
冠動脈疾患のリスク評価は狭窄度のみでなく、むしろプラーク性状で判断されるべきである。外来で容易に実施可能な冠動脈CT造影はその意味で極めて有能な診断modalityである。