心房細動
心房細動とは:
心臓は洞結節と呼ばれる生体発電所でつくられる電気刺激が心房(P)から心室(QRS)へ流れることで規則正しく収縮しています。心房細動になると多数の電気刺激が心房内で嵐のように旋回するようになり(f波)、心房は細かく震えるだけで有効な収縮が失われます。心室はたまたま伝わった電気刺激で収縮することになり、その収縮(QRS)は規則性が失われまったく無秩序になります(fig.1)。心房細動になると脈拍が急に増えて不整となるため動悸として自覚しますが、全く症状がなく健診時の心電図で初めて指摘されたということも稀ではありません。心房細動はその発生頻度から時々おきる発作性、1週間以上続いている持続性、そして慢性となった永続性に分類されます。心房細動発症の原因としては心臓弁膜症と甲状腺機能亢進症を確認する必要がありますが、明らかな原因のない孤立性心房細動が多く60歳を越えると年齢が増すにつれてその頻度は増え一種の"老化現象"と考えられます。発作性でも年齢を経るにつれ頻度と持続時間が増え最終的に慢性化するという自然経過をとる傾向がみられます。
心房細動の治療:
治療に関連して重要なことは、"心房細動"は名前が似ていて致命的な"心室細動"とはまったく違って、それ自体が生命に関わるような危険な不整脈ではないということです。心房細動と診断されても症状がなければそのままで全く正常な生活が送れますので、正常洞調律に戻すことは必須ではありません(fig.2)。症状がある場合は治療を行いますが治療には、1)心房細動のままで脈拍数を適切に抑える薬物治療(レートコントロール)、2)除細動し心房細動を止めて正常洞調律を維持する治療(リズムコントロール)の2つがあります。リズムコントロールをする場合は薬物による治療(抗不整脈薬)とカテーテルを使った治療(カテーテルアブレーション)の2つが考えられます。抗不整脈薬で除細動が成功した場合は洞調律を維持するため通常抗不整脈薬を継続することになります。しかし抗不整脈薬による治療は完全ではなく再発することも多く、薬の副作用が問題になることもあります。それに対してカテーテルアブレーションは外科的治療のため3~4日の入院とわずかながら危険も伴いますが、完全治療で再発のない根治治療が期待できます。一般的に若年の方や心機能低下のある場合はアブレーション治療が推奨されます。
心原性塞栓症:
心房細動で最も問題となるのは心原性塞栓症です。心房細動では心房が収縮しないため心房内で血液が停滞することになり48時間以上続くと血が固まる(血栓形成)危険があります。心房内で血栓が出来てそれが脳に飛ぶと重篤な脳梗塞を発症します(心原性脳塞栓症)。あの長嶋茂雄氏はこの心房細動による心原性塞栓症が原因で脳梗塞を発症したことは有名です。心原性塞栓症を予防するためには血栓形成を抑制する抗凝固治療が必要となります。抗凝固薬はこれまでは管理が比較的煩わしいワーファリンしかありませんでしたが、最近になりやや高価ですが管理が容易でより安全とされる新しい薬が使用できるようになりました。ただ、当然ながらこれら抗凝固薬は血が固まるのを抑制するという本来の作用のため出血の危険(出血性合併症)がやや高まることになります。治療に当たっては"心房細動による塞栓症の危険性"と"抗凝固薬による出血合併症の危険性"を天秤にかける必要があります。塞栓症の危険性は発作性、持続性、永続性といった心房細動の発生頻度とは関連がなくその危険性は同じです。発作性で頻度が少ないからといって塞栓症の危険が少ないとは言えないということです(fig.3)。
塞栓症の危険を高める危険因子は心機能、高血圧、年齢、糖尿病、血管障害既往、性別であり、これらを点数化(CHA2DS2-VAScスコア)することでその危険度を評価します(fig.4)。抗凝固治療はスコアが≧2であれば実施すべきで、スコア1では必須ではないが推奨され、スコア0であれば無しでも良いと判断されます。
診断: